2月も残りわずかとなり、振り返ってみれば文化政策と作曲に集中した月となりました。どちらもとてもエネルギーを注ぎ込んだものでしたので、ここにしたためておこうと思います。
まずは文化政策のことから。
昨年10月に静岡県文化政策審議会の委員を拝命してから、県内の芸術文化の政策や現状を勉強していますが、まだまだ分からないことが多いため、静岡県文化政策課とアーツカウンシルしずおか、それぞれの職員の方々から事業説明を受けたり、逆に私の活動についてのヒアリングをしていただいたりしてきました。
県庁では4時間、アーツカウンシルでは5時間半(!)の長時間にわたる意見交換のなかから、県内の現状や課題が浮かび上がり、その多くはマッチングが上手くいっていないことによるものと分かってきました。
政策側も、驚くほどの少人数で膨大な仕事量をこなしながら、真剣に誠実に静岡の文化芸術の深化と発展を考えていることも、お仕事の場に足を運んで初めて分かりました。
そしてそのことは外からはなかなか見えづらい。同時に政策側からも、アーティストの実態や現状は謎のようで、話すこと話すこと驚きを持って受け止めていらっしゃいました。
どの立場の人たちも文化芸術を愛し大切に思うのに、実態が見えないことやマッチングが上手くいかないことで、政策側・アーティスト側の双方ともが報われなくなってしまうことは本当に不幸なことでしかありません。
こうして機会をいただくことで、異なる立場の人間同士がどのようにお互いの実態を理解し尊重し合えるのか、本当のニーズを掴むにはどうすればいいのか、どうしたらどの立場の人も今より幸せになれるのか、など、考えるヒントをたくさんいただきました。
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東京から静岡に拠点を移してからもう10年少し経ちますが、東京に住んでいたときと比べると、静岡ではかなり異なる内容とペースで音楽に向き合っています。
東京の多彩な音楽シーンを羨ましく思う反面、静かな環境で音楽に向き合い思索を深められること、美しい自然から多くのインスピレーションを日々貰えること、千年以上前から土地に根付く音楽がそこここにあること、そうした自然や伝統の豊さによって人々の感性が開かれていること…挙げればきりがないですが、静岡の土地から数多くの恩恵を受けています。
このようにインプットの質の豊かさはあるものの、アウトプット(=演奏の場)となると、県内だけで演奏を生業にしていけるほどの機会をいただけることはまず難しいのが県内の現状です。
静岡にはこれまでご一緒したことのある、またはいつかご一緒してみたいと思うような、素晴らしい演奏家や実演家やアーティストの方々がたくさんいらっしゃいますが、多かれ少なかれ専業で生きていくことに様々な課題を抱えているのではと(もちろん私も含めです)想像します。
折角今こうして文化政策審議会の委員となっているのだから、地元のアーティストが協働できるような場づくりや、アートによる社会包摂的な展開によって、アーティスト自身もまた地域住民の一人として、地域コミュニティの中でその専門性を発揮できるようなことができないかな…と漠然と考えていて、部活動の地域移行の実証事業を行っている先生から今後の展望についてのお話を伺ったりもしています。
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こんな風に、文化政策という慣れない思考回路を開いて、頭を捻りながら勉強したり考えたりする時期でしたが、頭の中だけでなく、体もあちこちと動き回りました。
2月初旬には名古屋で友人が手掛ける場「みんなとまちの音楽室」を視察しに行きました。とても温かく心地よい場だったのは、演奏家の方々の心遣いや状況の適切な読み方などのお陰で、演奏家は、演奏だけではなく、場を回すスキルも問われるなと実感。
事業展開の仕方も色々と教えてもらい、妄想だけは膨らんでいます。
中旬には東京に行き、演劇関係者の講演・トークイベントに。こちらは来年度の大学講義のための勉強の目的だったのですが、図らずも静岡県内の民俗芸能の豊穣さを再認識する機会になりました。
西浦の田楽を紹介していたのですが、(多分みな東京か東京近郊に住んでいると思われる)その場にいる方々が驚きを持って受け止めているのを見て、私も知らなかった頃は同じように思ったのだろうなと思い、同時に、身近になりすぎて当たり前の感覚になっていつつある自分を省みたりもしました。こんなに豊かな文化があることは土地の誇りで、ジャンルは違えど学べることはたくさんあるな、と。
下旬には三島にて、アーツカウンシルしずおかの空き家活用パイロットプロジェクトを視察に。美術家清水玲さんの作品展示を行っていました。
まず街中のコワーキングオフィスに行き空き家までの地図をもらい、地図を頼りにたどり着くのが楽しい。ここ?というような急な階段を登りきり、またもここ?というようなドアを開けると光のアートが飛び込んできて、一気に異空間に。
空き家活用のモデルを拝見させていただき、またも妄想やイメージが膨らみました。
文化政策審議会の委員というのは、何か実行力のある権限を持っているわけではないため、できることは限られますが、自分の視野を広げるためにもさまざまな文化芸術の場に足を運び、人と会い、対話を重ねていきながら、得られた知見を提言に繋げていけたらと思います。
そしてもし、政策の実行側になる時があったとしても、実演家としての現場感覚を忘れないように、いつまでも現場の人間でもあり続けたいとも思います。
次の審議会は来週。建設的で発展的な話ができるように、準備に頑張ります。